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企業側が抱える問題
わずか数日間の旅行であれば、ガイドブックやスマホ片手に、ボディランゲージで意思疎通を図ることは難しくないでしょう。
しかし、仕事ともなると複数の責任が生じ、意思疎通の可否が成果に大きな影響を及ぼします。
この項目では、言語問題によって、どのような支障が生まれるのか、またその対処法についてまとめました。
多言語に対応できない
厚生労働省によると、外国人労働者の大半はベトナム・中国・フィリピン・ネパールが占めています。国籍が違えば使用する言語も異なるのは当然です。外国人労働者はそれぞれ日常的に異なる言語を使用しています。
英語のみであれば、ある程度の意思疎通を図ることは難しくないでしょう。しかし、その他の言語にもすべて対応するとなると、現実的ではありません。
このような課題解決の方法として、一番効率がいいのは、入社してくる外国人労働者に日本語を覚えてもらうことでしょう。
しかし、外国人労働者が働く事業所として一番割合が多いのは、30人未満の事業所です。
そこからも想像できると思いますが、人手不足で外国人労働者を雇い入れている企業の多くは、自社で日本語教育をする余裕がないのが現状です。
結果、言語の多様化に充分な対処ができないまま、問題を長期化させてしまいます。
[参考]「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
業務上で支障が出る
あるIT企業が行ったトラブルに関する調査によると、外国人労働者を雇用したことのある人のうち、半数以上が『コミュニケーションが取りにくかった』と回答しています。
- ・口頭での指示が伝わりにくい
- ・生活習慣や文化の違いに戸惑った
- ・日本語マニュアルでは理解してもらえない
具体的には、このような問題が挙げられていました。日本語への理解度が不十分なため、口頭での指示はおろか、マニュアルの日本語も読めない状態で就業している外国人も多く、企業側には指示方法に工夫が求められます。
また、面接時にある程度の会話ができたとしても、専門用語ばかりの現場では理解してもらえなかったり、会話ができても読み書きができなかったりするケースもあります。
一部のみ理解できれば良いと思っていては、業務の幅が狭まるかもしれません。今後も外国人採用を検討しているのであれば、職場の多言語化に適応できるマニュアル作成や教育方法、指示方法の工夫が必要です。
政府による言語問題の対策
言語問題に関しては政府も認識しており、外国人労働者の増加に向けて政府側でも複数の対策を行っています。
たとえば、2019年4月からは、介護や製造業など12の産業分野を対象に、外国人の在留資格「特定技能」が創設されました。(2024年4月からは、「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」が追加され、16分野に拡大)
人材の確保が困難な分野の人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人材を即戦力として受け入れるための在留資格です。在留資格を得るには日本語試験を受けて合格する必要がありますが、国籍は問いません。
また、日本語教育の水準向上のために、管理体制の強化や、日本語教育の推進に関する法案成立を目指すなど、現在も試行錯誤が続いています。
日常生活の場面では、生活相談窓口、運転免許の学科試験、ハローワークなど生活や就職・業務に必要な手続きがスムーズに行われるよう、各所で多言語化が進められました。
[参考]在留資格 特定技能 | 外務省 (mofa.go.jp)
外国人の言語問題に対応するには?
外国人労働者すべての国籍に合わせた多言語化は、多くの一般企業にとって負担が大きく、困難です。
しかし、現時点でも可能な言語問題への対策がないわけではありません。
この項目では、各企業ができる対策について、実際に行われている工夫をもとにご紹介します。
日本語が分からなくても業務ができるようにする
製造業など、ある程度のルーティンワークが決まっている職場では、口頭による指示以外を取り入れる手があります。
たとえば、画像や動画を利用し、日本語の説明文が理解できなくても作業内容が分かるようなマニュアルを作成するのはいかがでしょうか。
ダラダラと長い動画ではなく、ひとつひとつの作業ごとに区切るなど、短い動画や少ない画像数で作成することがポイントです。作業を始める前にサッと目を通すだけで理解できるマニュアルがあれば、管理者と作業者の意思疎通がスムーズになります。
あるいは、多言語に対応できるツールを導入したり、通訳係となる人員を数名入れる方法もおすすめです。
翻訳サービスを使用する際は、誤訳やニュアンスのズレに注意しなければなりませんが、簡単な意思疎通であれば即座にできるメリットがあります。
通訳係となる人員を導入すると、1名いるだけでも業務効率に大きな好影響が出ます。現場の規模や作業内容に合わせて人員を調節しましょう。通訳係は日本人よりも、ネイティブな文化や言語が理解できる外国人のほうが、外国人スタッフに伝わりやすくなります。
外国人労働者に日本語を学習させる
長期的に雇用したい外国人労働者がいる場合や、将来的にも外国人労働者を増やしたいと考えているのであれば、採用者に日本語を学習してもらう方法もおすすめです。
政府が外国人労働者の雇用促進のために、日本語教育の充実にも力を入れています。自治体やNPO団体が主催する日本語教室など、割安のサービスを利用することで、簡単な意思疎通は日本語でできるようになります。
実際に外国人労働者を積極採用している企業は、以下のような工夫で柔軟に対応しています。
- ・入社前に現地の日本語学校で数か月学習してもらう
- ・日本語レベルに応じたビジネス日本語研修の実施
- ・ビジネス日本語検定で一定以上の成績を収めた者に奨励金を出す
日常会話ができる程度の外国人労働者でも、業界によっては専門用語がネックとなり、実力を発揮できずにいます。
ビジネス用語に特化した日本語研修を行うことで、本来の能力を発揮できるサポートにつながります。
受け入れ時の基準を明確にする
日本語教育を行う余裕がない企業は、無理に自社で日本語教育をする必要はありません。日本語教育を実施しなくても成功している各社の例にならい、マニュアルや作業内容の工夫など、他の面で外国人労働者が働きやすい環境作りに力を入れましょう。
また、近年は高い日本語能力を持った外国人の求職者も少なくありません。求人を出す際に、あらかじめ必要とする日本語レベルやスキルを持つ外国人を募集対象とすれば、採用後のトラブルを避けられます。
外国人労働者を受け入れるときに問題となるのは、言語問題だけではなく、各国の風習や文化の違いもあげられます。それらを相互理解したうえで気持ちよく働いてもらうには、業務のための指示以外にも、会話による意思疎通やコミュニケーションが必要です。
日本で安心して生活するためにも、日常会話程度の日本語レベルはあったほうが良いでしょう。
まとめ
外国人労働者を採用する際に不安視されるのが、言語問題です。マニュアルの多言語化や動画・画像を使った(日本語のいらない)指示書の作成など、職場環境を整えることである程度の対策ができます。
入社後に研修等で日本語教育を行うこともできますが、難しい場合は、採用する外国人に求める日本語レベルを明確にしましょう。
また、受け入れ側の日本人社員も、やさしい日本語を使ったり、異文化理解研修を受講して受け入れマインドを整えることが大切です。
外国人労働者の就労環境整備については、国から助成金も出ますので、うまく活用しながら環境整備をするといいでしょう。