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年末調整の対象となる外国人とは?
日本の企業で働く外国人のなかには、年末調整が必要な人と不要な人がいます。ここでは、外国人の居住地(生活の本拠地)ごとにわけて解説します。
居住者の場合
日本に居住すると認められる外国人のことを「居住者」といいます。具体的には、日本に住所を持つ人、もしくは、1年以上日本に住み続けている人のことです。
具体的には、
- ・日本で就労ビザを取得している外国人労働者
- ・留学後に日本の企業で正社員として働き始めた外国人
- ・永住者または特別永住者の外国人
- ・海外の親会社から日本に一時的に派遣された外国人社員(滞在期間が1年以上)
などです。
日本で働く外国人は、日本に税金を納めているため、年末調整の対象になります。
居住者に対する税金の取り扱いは、基本的に日本人労働者と同様です。外国人労働者が日本の企業に所属している場合、所得税は日本人と同じく給与から源泉徴収されます。そして、年末調整を通じて、年間の税額が適切に計算される仕組みとなっています。
居住者の年末調整と源泉徴収に関しては、外国人だからと特別な取り扱いはされません。
居住者であれば、扶養控除や配偶者控除を受けることも可能です。たとえば、国外に扶養親族がいる場合も、所定の条件を満たせば控除の対象になります。ただし、この場合は「扶養控除等申告書」に加え、親族関係書類(戸籍謄本など)や送金証明書などを提出する必要があります。
非居住者の場合
日本に居住する外国人を居住者と呼ぶのに対して、外国に生活の本拠がある外国人を「非居住者」といいます。
非居住者の主な例としては、
- ・日本国内で短期間だけ働く外国人
- ・ワーキングホリデービザでアルバイトをする外国人
- ・海外の親会社から日本に一時的に派遣された外国人社員(滞在期間が1年未満)
などが挙げられます。
日本企業が非居住者の外国人を雇う場合、年末調整の手続きは不要になりますが、源泉徴収はです。
ただし、日本と「租税条約」を結ぶ国に居住する非居住者に関しては、所得税の軽減や免除が適用される場合があります。租税条約とは、締結国間で二重課税を防ぐための取り決めです。
日本と租税条約を結ぶ国は、アメリカやイギリス、オーストラリア、中国、韓国、フィリピン、ブラジル、ドイツなどです。
租税条約の適用による所得税の軽減を受ける場合、所定の届出書を非居住者に記入してもらい、会社から税務署に提出する必要があります。
外国人の年末調整をする際の注意点
外国人社員の年末調整で必要になる書類
外国人社員の年末調整では、日本人同様、以下の3種類の書類提出が基本となります。
- ・給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- ・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- ・給与所得者の保険料控除申告書
扶養控除を受ける際の基本条件
外国人労働者が日本で働く場合、扶養控除を適用することができるケースがあります。ただし、扶養する親族が国内にいる場合と国外にいる場合とでは、手続きや必要書類が異なるため注意が必要です。
扶養控除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります:
対象となる親族の範囲
-
- ・6親等内の血族(例:子、孫、兄弟姉妹、いとこなど)
- ・配偶者(法律上の婚姻に限る)
- ・3親等内の姻族(例:義理の両親、義兄弟姉妹など)
所得要件
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- ・扶養親族の所得が年間48万円以下であること(給与所得のみの場合、年収103万円以下)。
- ・親族が非課税対象となる所得を超えて収入を得ている場合は控除の対象外となります。
生計を一にしていること
-
- ・親族が同居している場合だけでなく、別居している場合でも生活費や学費などの送金を行っている場合は「生計を一にしている」とみなされます。
令和5年分から、国外居住親族に対しては、上記に加えて以下の3つの条件が追加となりました。
- 年齢 16 歳以上 30 歳未満の者
- 年齢 70 歳以上の者
- 年齢 30 歳以上 70 歳未満の者のうち、次の①から③までのいずれかに該当する者
① 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者
② 障害者
③ その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を 38 万円以上受けている者
[参考]No.1180 扶養控除|国税庁
扶養控除を受ける際の必要書類
国内居住親族の場合
日本国内に住む親族が扶養親族に該当する場合、基本的には日本人の扶養控除手続きと同じです。特別な追加書類は必要ありませんが、以下の点に注意してください:
- ・住民票で親族関係を確認できること。
- ・親族の所得が上記の所得要件を満たしていること。
国外居住親族の場合
国外に住む親族を扶養親族として申告する場合、所定の書類の提出が義務付けられています。この手続きは特に慎重に行う必要があり、不備があると控除が認められない場合があります。
1. 親族関係書類
国外に住む親族と労働者本人の親族関係を証明するための書類です。次のいずれかを提出します:
- ・戸籍の附票と旅券の写し(日本の戸籍に記載がある場合)。
- ・外国の行政機関が発行する書類
例:出生証明書、婚姻証明書などで、親族の氏名・住所・生年月日の記載があるもの。
※外国語の書類は、日本語訳を添付し、翻訳者の氏名や連絡先を明記する必要があります。
2. 送金関係書類
国外に住む親族への送金を証明するための書類です。以下のいずれかを提出します:
- ・金融機関発行の送金証明書
例:銀行の振込明細書や送金履歴。 - ・クレジットカード会社発行の利用明細書
(国外に住む親族がクレジットカードを利用した場合、利用代金の支払い明細を提出)。
[参考]国税庁 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係).pdf
こんな場合はどう年末調整すればいい?
なんらかの手違いやトラブルがあり、年末調整の履行が危ぶまれた場合どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、外国人労働者が年末調整前に出国してしまった場合や、年末調整に必要な書類が間に合わない場合の対処法について解説します。
年末前に非居住者になった場合
日本の企業で働く外国人労働者は、居住者と非居住者で年末調整の扱いが大きく異なります。具体的には、居住者であれば一般の労働者と同様の扱いになり、非居住者であれば年末調整は不要です。
では、外国人労働者が年末の直前に居住者から非居住者に変わった場合、どのような扱いになるのでしょうか。
ポイントは、帰国前の確定給与です。たとえば、すでに給与支払い日前に外国人労働者が出国し、非居住者になっている場合、出国前に支払いを行った給与までを基準に年末調整が行われます。
出国日以後に支払われる給与は年末調整の対象にはならない点には、注意が必要です。
なお、当該外国人のその年の年末までに支払われる給料予定額が2,000万円以下、加えて1年以上海外転勤する場合、会社は、本人の出国日までに年末調整を行わなければなりません。
必要書類が間に合わなかった場合
もし年末調整までに必要な書類が揃わなかった場合は、外国人労働者本人が確定申告を行わなければならなくなります。
その場合、外国人本人には確定申告に必要な書類や手続きについて詳しく説明を行いましょう。外国の税制は日本と大きく異なります。当然、税金の徴収方法や手続きのやり方も違うため、外国人が自力で確定申告を行うことには非常にハードルが高くなります。
一方、外国人社員が日本を出国するまでに年末調整が間に合わない場合は、外国人本人に代わって、代理人である納税管理人を立て、諸々の手続きを行ってもらうことが必要です。
納税管理人は税理士や弁護士を指定するのが一般的です。なお、納税管理人は法人でも個人でも構いません。
納税管理人の選任は、外国人労働者本人が出国前に行い、税務署に届出をしなければなりません。もし、手続きを行わずに出国してしまった場合は、納税管理人が本人に代わって選任の手続きを届け出ます。
いずれの方法にせよ、年末調整(確定申告)は漏れなく行いましょう。期限後申告と見なされると、納税者にペナルティが課せられます。
まとめ
企業で働く外国人であっても、日本に住む居住者と国外に住む非居住者で年末調整の手続きは異なります。
さらに、控除に関しても、国外に扶養家族がいる場合、親族関係にあることを証明する書類や、親族への定期的な送金を裏付ける書類が必要です。
年末調整前に帰国の予定がある場合や、年末調整までに書類が間に合わない場合は、年末調整や確定申告が遅れてしまわないよう、事前に対策を立てましょう。