目次
人材戦略とは
人材戦略とは、企業の経営目標に達するための事業戦略に必要となる、人事面におけるさまざまな戦略のことをさします。
具体的には、人材の適切な配置や採用・育成に関する戦略で、経営目標の達成に必要不可欠な人材を配置することで、企業力そのものの強化を行います。
企業は経営戦略を滞りなく成功させるとともに、企業自体を理想の状態にすることが求められます。人事面では、人材それぞれのパフォーマンスを最大限に発揮できるよう、形骸化した業務内容や指示に縛られない環境を作るべきです。
人材戦略の立て方
最適な人材戦略は、企業ごとに異なります。
たとえば某企業では、主要業務に配置されたスタッフの大半が主婦のパートタイマーだったことから、自由出勤制を導入した例があります。子どもの急病や学校行事に参加しやすくなった結果、当日の急な欠勤や遅刻がなくなり、毎日の業務も滞りなく行われるようになりました。
人材配置自体も「該当業務を得意な人員が担当すれば良い」と希望制にしたところ、人員不足となる部署はなく、生産性アップや離職率低下へとつながりました。
上記の例はあくまで企業がおかれる状況(従業員の特徴や業務内容など)に合わせた戦略であり、すべての企業が模倣できるものではありません。しかし、このように自社の状況や人材配置のルールを改めて見直すことは、いずれの業界にも共通する人材戦略の第一歩です。
この項目では、人材戦略を立てるうえで把握しておくべき点や必要な手順をご紹介します。
経営戦略を確認する
人材戦略を立てるためには、経営戦略を改めて確認することから始めましょう。
以下の点を明確化します。
・企業が実現したいことは何か
・現在おかれている環境(市場での立場)
・現在の経営状況
客観的なデータを用いて、現在おかれている環境や経営状況、将来的にどのように改善させたいのかを洗い出します。
次は結論に基づいた人材戦略を立てますが、ポイントは採用から育成、人員の配置および定着まで、人材戦略と経営戦略に整合性と一貫性を持たせることです。
優秀な人材を育てあげても、経営戦略と整合性が取れていなければ宝の持ち腐れとなり、違和感を覚えた人材が他社へ流出してしまうリスクとなります。
まずは経営戦略・事業戦略を実行するために必要な人材の特徴や現在の状況、改善すべき点の把握を早急に行う必要があります。
戦略の実現に必要な人物像を定義する
人材戦略の目標を達成させるために、必要な人物像を定義しましょう。
求めるスキルやマインド、業務経験など、「どのような人材に入社してほしいのか」を可能な限り多くの視点で明確化します。
具体的に「何人ほど」の人材が「どのようなタイミングで」必要なのかも確認しておきましょう。人員不足は現場の負担となり、過剰な人員は業務スピードの鈍化を招きます。
注意点は、閑散期や繁忙期を基準にしないことです。
たとえば、一時的な人材不足の状態で迎えた、繁忙期の従業員数を参考にした場合、慢性的な人材不足に悩まされる部署が発生します。
長期的なデータを元にチェックし、必要な人員数や求められる人物像を定義してください。
現状を把握し、目標を設定する
経営戦略や人材戦略の実行に不可欠となる人員を定義すると、必然的に現状を把握することとなります。理想と現実のギャップを知ることで、人材募集時の条件・待遇と求める人物像の釣り合いが取れているかどうかが分かります。
また、現在の人員の能力・経験や人数の不足もしくは過剰状態が分かり、人材戦略で求められている改善点を知ることができます。
既に配置されている人員の現状を把握したうえで、改めて目標を設定しましょう。
無理に理想を押し通せば条件・待遇とのバランスが取れず、求職者に背を向けられてしまいます。
人材戦略を設計する
人材戦略で求められる改善点や目標が浮き彫りになったら、次は具体的なプロセスの設計を行います。たとえば以下のように項目を分け、提案や実行を主に任せる担当者を取り決めて進めましょう。
・採用方法を見直す
・教育プログラムを変更する
・配置方法を変える
ポイントは、現在在籍している人材の情報(スキルなど)を参考に、現時点で実行可能な計画の範囲にとどめることです。
将来の変化を見越したハードルの高い計画ではなく、現在実行に移すことのできる改善案を中心にプロセスを組み立てることが実現性を高めます。
人材戦略を実施するときのポイント
待遇を良くすれば優秀な人材が集まりやすくなりますが、一方で求めるレベルに達していない人材を採用してしまうリスクも高くなります。
採用段階で企業が求める人材を見極めることはもちろん、そのような場合を想定した採用後の教育や配置によるフォローも必要です。
最後に、人材戦略を計画・実施するときに意識すべきポイントをご紹介します。
多様性を取り入れる
組み立てた人材戦略を実施するときは、多様性を重視することも必要です。
多様性(ダイバーシティ)とは、多様なバックグラウンドを持つ人材が、ともに活躍できる企業や社会を目指すものです。
発祥の地アメリカでは、女性やマイノリティが採用活動で差別を受けない公正さを求める運動から広がりました。
・性別
・国籍・人種・民族
・宗教
・年齢
・価値観
・ライフスタイル
・障害者
・性的志向・性自認
たとえば上記のような多様性を受け入れる他、広義では働き方や雇用形態も含まれます。
日本の各企業でも女性の働きやすさを追求した職場環境の改善や、社内に保育施設を併設するなど子育て世代を応援する取り組みが広まりつつあります。
個々の事情や多様性を受け入れると、優秀な人材が社内に集まりやすくなり、一人ひとりのスキルを最大限発揮させることが可能です。
また、多様性を受け入れることは、さまざまな価値観を生みだすことにもつながります。
多様性を検討するのであれば、外国人の採用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
外国人にとっての常識や思考が、新しい経営戦略を生み出すきっかけとなり得ます。
タレントマネジメントを導入する
人材戦略には、タレントマネジメントの導入が最適です。タレントマネジメントとは現在自社に在籍する人材のスキルや能力を正しく把握したうえで、配置や育成を戦略的に行うことを指します。
人材ごとに最大限のパフォーマンスを発揮させるために必要な環境を把握したり、スキルや経歴など個々の情報を整理したりすることで、企業に不足している人材を明確にします。
そして明確となった事実に基づき、能力開発につながるシステムや取り組みを導入した人材戦略、優秀な人材の維持などによって、最終的な企業の競争力アップへつなげます。
現在自社に在籍する社員の能力を引き出し、活躍の場を創出するためには、リスキリング教育の導入も有用です。
まとめ
働き方が多様化した現代、画一的なマネジメントでは、優秀な人材や企業が求めるスキルを持つ人材を自社に留めることができません。多様性を受け入れ、そのうえで個々の事情を加味した環境の提供と人材戦略が重要です。
また、より優秀な人材の確保や多様性を取り入れるには、外国人など新しい人材の歓迎も検討したいところです。
従業員の多様性が広がることは、さまざまな考え方を戦略の参考にするチャンスでもあります。
ただし、お互いの価値観を尊重しながら協働するためには、異文化理解やコミュニケーションを向上させるための取り組みが必要となるということを、忘れないでおきましょう。