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ホテルが人手不足になる要因
ホテル業界における人手不足は、複数の要因によって引き起こされています。
まず第一に挙げられるのは、労働力の需要と供給の不均衡です。
コロナ禍を経て観光業の拡大や国際交流が増加したことにより、ホテルの需要は急増していますが、それに対して人材の供給が追いついていない状況が続いています。
また、ホテル業界は季節労働や長時間労働が一般的であり、労働条件の厳しさも人手不足の要因となっています。
本記事では、ホテル業界の人手不足の要因と対策を詳しく見ていきます。
ホテル需要(宿泊者数)の増加
2024年4月総務省の調べでは宿泊・飲食サービス業の従業員数はおよそ398万人となっています。
[参照]統計局ホームページ/労働力調査(基本集計)月次結果 (stat.go.jp)
それに比べ、2024年4月の延べ宿泊者数は5,096万人(外国人はそのうち1,315万人)。2022年4月と比べると1,800万人増加、2023年と比べると550万人増加しています。
これらの数値からもわかるように、仕事の増加に対して人手が不足している状況が起きているのが現状です。
[参照]宿泊旅行統計調査 | 観光統計・白書 | 観光庁 (mlit.go.jp)
離職率が高いとされる業界
ホテル業・宿泊業は離職率が高いことや待遇面での満足度が低いということが課題になっています。
[参照]令和4年 雇用動向調査結果の概要|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
また「新規学卒者離職状況」では2020年入社数10,828人に対し、3年以内の離職者が5,569人と離職率は51.4%となっています。ホテル業・宿泊業の離職率は全業界の中で常に高い離職率となっているのです。
[参照]新規学卒者の離職状況 | 厚生労働省 Ministry of Health, Labour and Welfare Japan|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
労働環境における課題
全業界の中でも常に高い離職率のホテル業・宿泊業はどこを改善すればよいのでしょうか。改善点を見つけるにあたり、労働環境における課題について考えてみる必要があります。
ホテル業界の労働環境・勤務形態は?
ホテル業・宿泊業の離職率の高さの背景に、厳しい勤務形態があげられます。
1点目は他の業界に比べ、年間の休日が少ないことです。ホテル業界に限らず、飲食などのサービス業などで多くみられる問題です。
他の業界で休みのときが繁忙期のため、一般的な休日である土日・お盆・正月などが休めません。
それだけではなく、休み自体も少ない業界です。特に勤務体系の厳しいところでは週休1日制のところも少なくありません。
また、カレンダーに合わせた休暇のときには休めないため、他業界の友人と予定を合わせることが難しい状況です。希望通りに休みが取れないことで、ストレスを溜め込みやすい状況になっています。
2点目は、シフト制の勤務のため、連続した休みが取りにくいことです。人手不足の中、余裕のない従業員数で勤務している場合、旅行に行けるくらいの連続した休みは取りにくいでしょう。なぜなら、長期休暇を取ると他の従業員に負担がかかってしまうからです。
3点目は、夜勤・早朝のシフト勤務で長時間労働が必要になることが多くあることです。シフト制は就業体系が不規則なため体内時計が狂いやすく、体調も崩しやすくなります。
長時間労働や夜間勤務が多いことから、労働者のワークライフバランスが損なわれる傾向があります。
4点目は、体力を要する仕事であるということです。公には見えていないだけで、長時間の立ち仕事、生活が不規則になり体力を消耗する仕事です。
学歴により異なる待遇は?
ホテル業では、学歴による待遇の差が課題となっています。ホテルでは雇用形態やポジションにより賃金が決まるので、学歴差は非常に重要な問題です。
例えば、四大卒の新卒者は、正社員向けの研修があるにも関わらず、専門学校卒者は契約社員からのスタートという事例もあるようです。
雇用形態が違うということは、賃金の待遇面でも違いが出てきます。能力が高くても専門学校卒というだけで、待遇が悪くなることから、従業員の満足度の低下・職場内での不満につながると考えられます。
課題を解決していくための具体策
ホテル業・宿泊業の問題を解決するためにはどのような対策方法があるのでしょうか。
離職者数に歯止めをかける
最も重要なことは、従業員が辞めずに働き続けられるための策を積極的に取り入れることです。具体的には労働環境の整備・福利厚生の充実・待遇面での見直しがあげられます。
労働環境の整備の第一は連休を制度化させることです。不規則の勤務形態で長期連休を取りにくい状況の改善のため、連休を制度化させることで心身ともにリフレッシュできる時間を増やしていくことが目的です。
また、オフシーズンなどの閑散期には「特別休暇」や従業員が交代で連休が取れる制度を設けることで年間休暇を増やすことができます。
休日をいきなり増やすことが難しい場合は、勤務時間をコントロールできるようにするとよいでしょう。例えば、残業時間の抑制です。
また、勤務間のインターバルを設けるのもひとつの解決策です。勤務間インターバルとは退勤時間から出勤時間までの時間のことで、一般的な企業は11時間を設けています。
勤務間インターバルを増やしていくことでプライベートと仕事のメリハリがつきやすく、心身ともに充実感を得ることができるようになるでしょう。
福利厚生の充実は、内容はもちろんですが、いかに利用しやすいかというのが重要になります。例えば保養施設の優待があっても、休みが取れなければ行くことができないからです。
それよりは、マッサージが無料で受けられるなど、より日常的なニーズにあった福利厚生を充実させることが求められます。
待遇の見直しが必要なのは一定の専門知識がある人材を契約社員として雇用するなど、長期的にみれば企業にとってマイナスになるようなことがあるからです。
従業員の満足度を上げなければ定着率は上がりません。そのためキャリアパス制度の導入を積極的に行うことがおすすめです。キャリアアップのチャンスが誰にでもあると従業員のやる気にもつながります。
就職希望者数を増やし入職者数を増やしていく
就職希望者を増やし入職者を増やすためには、上記で示したような制度改革を実行し、大々的に発表をすることが大切です。
制度を整えることで求人票やWebサイトで自社をアピールできる項目が増えます。また他の企業との差別化ができるようになります。
制度改革は今後の課題としても行うべきですが、一朝一夕でできることではありません。そこで制度を整える間の対策として、派遣制度を活用することがおすすめです。
人材を補充してまずは労働環境を整え、その間に戦力となる入職者を増やしていくという考えです。
さらに、ホテル・宿泊業であれば外国人労働者の採用に踏み切っても良いでしょう。二ヶ国語以上話せるマルチリンガルの方などが採用できれば、単に労働力不足の解消だけではなく、ホテル事業としてのサービスの拡大も望めます。
教育・研修の充実
ホテル業界は高いレベルのサービスが求められるため、新人教育や研修にも多大なリソースが必要とされ、これも人手不足の一因となっています。
しかし、入社後の教育や研修が充実していないと、即戦力とならず、現場のベテラン社員・スタッフの負担が増え、新しい人を入れれば入れるほど現場は混乱するという悪循環となります。
研修など、外部に委託できる部分は外部のサービスを利用することで、既存スタッフの負担を減らし、さらには新人の教育を標準化することができます。
まとめ
2024年4月・5月の訪日外客数は、2か月連続で300万人を超えました。国際便の復元や円安が要因となり、インバウンドは今後も大きく成長していきそうです。そんな中、ホテル業・宿泊業は大きな転換期を迎えています。