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人手不足が深刻化する物理的な問題
人手不足が深刻化する原因は、人口減少に伴う生産年齢人口の減少です。少子高齢化が進む一方で世帯数は増加傾向にありますが、こちらも将来的には減少するといわれています。
生産年齢人口は2027年には7,000万人を下回る?!
総務省の平成29年の推計によると、日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少し、2060年には9,000万人を下回るという予測結果となりました。
その一方で、生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークに、総人口よりもやや早い段階で減少局面に入っています。
このまま減少していくと2027年には、7,000万人を下回ると予測されています。
1990年代の生産年齢人口は総人口の70%近くを占めていましたが、2018年になると59.77%まで減少し、わずか20年ほどで60%を下回る結果となりました。
増えている世帯数も今後は減っていく
現代の日本は、総人口の減少が進む中、世帯数が増加しているという特殊な状態にあります。これは、未婚化や晩婚化、離婚の増加に伴い単身世帯数が増えていることが原因です。
【世帯構造】
・世帯総数
平成29年:5042万5000世帯
令和元年:5178万5000世帯
令和5年:5445万2000世帯
・夫婦と未婚の子のみの世帯
平成29年:1489万1000世帯(29.5%)
令和元年:1471万8000世帯(28.4%)
令和5年:1351万6000世帯(24.8%)
・単独世帯
平成29年:1361万3000世帯(27%)
令和元年:1490万7000世帯(28.8%)
令和5年:1849万5000世帯(33.9%)
・夫婦のみの世帯
平成29年:1209万6000世帯(24.0%)
令和元年:1263万9000世帯(24.4%)
令和5年:1339万5000世帯(24.5%)
・高齢者世帯
平成29年:1322万3000世帯(26.2%)
令和元年:1487万8000世帯(28.7%)
令和5年:1656万世帯(30.4%)
※( )内は構成割合
世帯数が増加すると、冷蔵庫やテレビといった家電製品や日用品など、生活に必要なものの需要が増加することが予測されます。
しかし、その一方でこのまま子供のいない夫婦や単身の世帯が増加していくことになると、生産人口は減少していくことになります。
世帯数が減少しはじめるピークアウトは2030年頃ともいわれており、少子高齢化はさらに進んでいくことになるでしょう。
[参照]2023(令和5)年 国民生活基礎調査概要|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
人手不足が深刻化すると?
人手不足が深刻化すると、事業継続が困難になり、倒産する企業が増加してしまいます。
企業の減少が考えられる
東京商工リサーチの調査によると、人手不足が原因で倒産した企業は、2019年には前年より6%増え、過去最高の426件であることが分かりました。
生産年齢人口が減り続けているなか、従業員数の増加をのぞむ企業が大きなダメージを受けて、倒産している傾向にあるのです。
[参照]「人手不足」関連倒産(5月) | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
最も人手不足が深刻化する業界は?
今後人手不足が深刻化する業界は、宿泊業界、飲食業界、建設業界、製造業界といわれています。
【宿泊業界】
宿泊者数が増え続けているなか、宿泊業界の従業員は6年連続でほぼ横ばいであることがわかりました。
長時間労働や変則的なシフトが、身体的、精神的な疲労に繋がり離職率が高くなってしまうようです。
【飲食業界】
飲食業界は少子化の影響を受け、アルバイトやパートで働く学生が不足し人手不足となることが予想されます。
また、社員自体が少ないために、アルバイトに長時間労働をさせたり、クレーム処理を任せたりと、1人あたりの負担が大きくなっているのも高い離職率に繋がっています。
【建築業界】
主力となっている労働者年齢が高くなっていることや、ハードなイメージから若手の人員確保が難しくなっていることが背景にあります。
また、高齢化社会化によって医療、福祉業界が、オンラインショップの利用者増加によって運搬業界の需要が増加しています。需要に対する従事者の不足も懸念されています。
【製造業】
製造業においても人手不足が深刻な問題となっています。特に技術者や熟練工の不足が顕著で、製造ラインの効率化や技術革新に対応できる人材が不足しています。
自動化やAI導入が進む一方で、新しい技術に対応できるスキルを持った人材の確保が難しく、また、製造現場の労働環境が過酷であることも要因です。これにより、求人の難しさや高い離職率が問題視されています。
人手不足を解消するために企業が実践すべきこと
今やすべての業界での課題となった人手不足。解消するためにはどのようなことを実践していけばよいのでしょうか。
待遇改善・企業風土の見直しや魅力ある社内環境づくり
人手不足になる要因は、業界によって異なりますが、すべての業界で共通しているのは、労働力人口そのものが減少しているということです。
事業相続のために限られた人材を必要とするなか、特に若い人材は企業間での奪い合いとなることでしょう。
若い世代に選んでもらえるよう、企業側は以下の内容にテコ入れしていく必要があるといえます。
- 待遇改善
・給与の見直しを行う
・給与アップの機会を設けて基準を明確にする
・長時間労働を避け休日を確保する
このような基本的な待遇をしっかり見直し、改善可能な部分を探しましょう。働いたらその分給与を払い、休日が取得しやすい雰囲気づくりも大切です。
- 風通しの良い企業風土や環境づくり
職場環境は離職率に大きな影響を及ぼします。社員が自らの力を存分に発揮できるよう、円滑なコミュニケーションが可能な環境を目指しましょう。
定期的にイベントを開催し、社員同士での交流を深めることも有効です。
- キャリアパスの導入
アルバイトやパートの非正規雇用で働く人を、能力や働きぶりを評価し、正社員に転換させる「正社員登用制度」も、人材の定着や優秀な人材確保の手段として有効です。
非正規雇用の人たちのなかに「頑張れば正社員になれる」という空気が生まれ、個人のスキルアップやモチベーションの向上にも繋がります。
多様性を認めて受け入れていく
企業が人手不足を回避するためには、人材や働き方の多様性を認め、許容していくことが求められます。
現在、ビジネスシーンで焦点となっている多様性は、性別・年齢・国籍といった属性的条件と、価値観やライフスタイルなどの思考的条件の2つです。
働き方改革として、以下の多様性を受け入れ、改革を行いながら、人材の受け入れ枠を広げていくことが大切です。
「育児や介護と両立できる人材」:短時間社員やリモートワークで働ける環境をつくる。
「兼業できる人材」:すでにどこかで働いている人や、フリーランサーが専門的な知識を持って副業できる体制を整える。
「外国人を採用」:通訳者を常駐させ、職場全体でコミュニケーションがとれるよう、共通語を習得することで、将来の人材不足を補う。
社外のリソースを活用する
社内の人材にこだわらず、業務を社外に委託するという方法も有効です。
例えば資料作成や製品PR用コンテンツの作成、新人研修の講師、Webサイトの管理者やSNS運用者などです。全てを社内で完結させようとするのではなく、協業できる個人事業主やパートナー企業を見つけてはいかがでしょうか。
まとめ
労働者人口が減少するなか、事業継続のための人材確保は全ての企業の課題といえるでしょう。人材確保のためには、人材や働き方の多様性を認めた上で、新たな受け入れ枠の幅を広げていくことが必要となってきます。
これまでの企業のありかたに固執せずに、労働者が働きやすい環境を考え、それぞれのライフスタイルや価値観を鑑み、労働者が「ここで働きたい!」と思えるような企業を目指していきたいものです。
また、人がいらないオペレーションの方法を模索したり、業務を社外に委託するなど、観点を変えて新しい仕事の在り方を創っていくことも大切です。